
腰痛患者の原因がわからない
非特異的腰痛ってなに?
腰痛の評価の仕方が知りたい
そんな方のために、腰椎の分類についてと非特異的腰痛の原因を考える臨床推論について記事でまとめています。
腰痛に悩まされる人は高齢者に限らず、若者など幅広い年代に存在しています。
腰痛を引き起こす代表的な疾患には、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、脊椎圧迫骨折などがあります。
しかしこれらのように医師による診察や各種画像検査によって原因が特定され、病名がつくのは腰痛患者全体の15%程度しかいません。
残りの85%は、様々な検査を行っても、明確な原因が特定しきれない腰痛であり、それらは非特異的腰痛と呼ばれています。
腰痛の分類

腰痛は有痛期間による分類と、さらにその中で原因による分類があります。

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急性腰痛と慢性腰痛のちがい(有痛期間による分類)
急性腰痛:発症からの期間が4週間未満
亜急性腰痛:発症からの期間が4週間以上3ヶ月未満
慢性腰痛:発症からの期間が3ヶ月以上(心理社会的な影響を検討)
*注意して欲しいのは急性腰痛の単純な慢性化が慢性腰痛ではありません。
腰痛の原因が改善されず急性腰痛を繰り返すことで慢性化しているケースは慢性腰痛ではなく、慢性再発性腰痛と表現されることもあります。
参考:隅元庸夫,伊藤俊一:非特異的腰痛の理学療法における臨床推論とディシジョンメイキング,理学療法28巻11号,1339-1349,2011例えば、
運輸業などで頻繁に荷物の積み込みなどを行う職業の場合、荷運びによって腰背部筋に過剰なストレスが繰り返しかかります。
職業的な原因により、繰り返しストレスがかかるとその原因を除去・軽減しない限り急性腰痛が繰り返し生じ、腰痛が慢性化します。
このようなケースを慢性再発性腰痛と呼んでいます。
特異的腰痛と非特異的腰痛
急性腰痛や慢性腰痛の中でも「原因が明確に特定できるかどうか」によってそれぞれ「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」に分けられます。

記事冒頭でも述べておりますが、
“医師の診察および画像の検査(X 線や MRI など)で腰痛の原因が特定できるものを特異的腰痛、厳密な原因が特定できないものを非特異的腰痛”といいます。
ぎっくり腰は、椎間板(ついかんばん)を代表とする腰を構成する組織のケガであり、医療機関では腰椎捻挫(ようついねんざ)又は腰部挫傷(ようぶざしょう)と診断されます。
しかしながら、厳密にどの組織のケガかは医師が診察してもX 線検査をしても断定できないため非特異的腰痛と呼ばれます。
出典:厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/1911-1_2d_0001.pdf)補足:腰痛を原因組織ごとに5つに分けた分類
原因がはっきりしているかどうかで「特異的」か「非特異的」かにわける分類を紹介しましたが、それ以外にも腰痛の原因組織ごとに大きく5つに分けて考える分類もあります。
本記事の主旨とはやや離れますが、腰痛の原因を知るためにも参考程度にご紹介しておきます。
①脊椎由来
②神経由来
③内臓由来
④血管由来
⑤心因性
詳しい例は下記画像で紹介されています。

腰痛の原因には上記のようにたくさんありますが、非特異的腰痛の場合は4つに分類されています。
非特異的腰痛について
非特異的腰痛の原因は4つに分類
非特異的腰痛は次の4つに分けられます。
①筋・筋膜性
②椎間板性
③椎間関節性
④仙腸関節性
これら脊椎構成体の障害と同時に加齢的、職業的、運動的、生活習慣的(姿勢など)、社会心理的の影響も考慮する必要があります。
それぞれについて特徴を踏まえて書いていきます。
筋・筋膜性

・腰痛の中で最も多い
・安静時痛よりも運動時痛が強く、体幹屈曲での症状悪化が多い
・体幹伸展筋の筋内圧亢進が特徴とされ、長期間にわたる中腰姿勢での労作や繰り返される脊柱へのストレスが原因とされる。
・休息や体幹伸展で寛解し、腰痛性間欠性跛行がみられることも多い。
筋・筋膜性腰痛は体幹伸展筋のスパズムにより痛みが生じています。
筋スパズムの疼痛発生機序やメカニズムについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
椎間板性

・椎間板内圧の変動が特徴
・体幹屈曲での疼痛、座位での疼痛がみられる場合が比較的多い。
・体幹伸展で増悪する例も少なくない
・体深部より発生する痛みを訴え、立位、座位で耐え難い痛みを有する
・発痛メカニズムは十分に解明されていない
体幹屈曲に伴い、椎間板へ機械的ストレスがかかり痛みが生じていると考えられています。
椎間関節性

・腰椎過前弯、椎間関節のインピンジメントや変性などの関節支持性の問題が特徴
・体幹伸展により痛みが増悪することが多い
・関節包に存在する神経が刺激され痛みが生じる
・椎間関節と多裂筋の神経支配が同じであることから、椎間関節への侵害刺激により反射的に多裂筋のスパズムを招くこともある。
腰椎椎間関節は上位腰椎の下関節突起と下位腰椎の上関節突起とからなる。
下位腰椎の上関節突起関節面は後方内側、上位腰椎の下関節突起は前方外側に向いており、上位腰椎の関節面が下位腰椎に覆いかぶさるような構造となっている。
椎間関節は過度な屈曲や回旋時に椎体間の動きを制限しています。
体幹伸展で痛みが出る理由
椎間関節は滑膜と関節包で包まれていますが、過度な腰部の伸展により椎間関節への荷重が増大し、関節包は伸張されます。
このような関節包への機械的なストレスが侵害受容器を刺激することによって疼痛が起こります。
また、体幹伸展時には上位腰椎の下関節突起の先端が下がり、下位腰椎の上関節突起に衝突し、椎間関節圧が増大します。
さらに腰椎の伸展が大きくなるほど、椎間板が受けるはずの圧力は椎間関節へ伝達され、椎間板にかかる圧力の70%が椎間関節にかかり、負担が増大し、痛みが生じます。

鳥羽清治:整形外科運動療法ナビゲーション-下肢,株式会社メジカルビュー社,東京,296,2014
仙腸関節性

・仙腸関節への繰り返されるストレスや、過激な負荷、股関節の可動域制限などによる仙腸関節の可動性低下や不安定性による周辺組織の過剰負荷が原因
・体幹屈曲伸展どちらでも疼痛が誘発される可能性あり。
・仙腸関節の著明な圧痛がみられる
・関節包・靭帯に存在する神経が刺激され痛みが生じる
・疼痛出現の範囲は様々。
・仙腸関節性の腰痛の発生頻度は高くはない(腰痛全体の10%)
仙腸関節は後方を強靭な骨間仙腸靭帯および後仙腸靭帯で結合されており、可動域は小さいが、臥位以外では常に上体の重みを支えています。
さらにその関節面は荷重線に対して垂直に近く、せん断力を生じやすい構造です。
仙腸関節性腰痛の痛みの機序
中腰での作業や不用意な動作あるいは反復性の作業で繰り返しの負荷で骨盤周囲の筋の協調運動に破綻が生じると関節に微小なズレが生じます。
仙腸関節の関節包および、後方の靭帯にも知覚神経終末があり、関節の微小なズレから生じる機械的ストレスが侵害受容器を刺激し痛みを生じさせます。
非特異的腰痛の運動検査

体幹屈曲・伸展どちらで誘発されるか
腰痛患者の評価をする上で疼痛部位や痛みの種類、有痛期間、出現する場面などを問診で確認したあと
実際にどんな運動で疼痛が誘発されるかによって原因組織を追求していきます。

体幹屈曲で誘発される場合
立位や座位での体幹屈曲時に症状が出現する場合、次の3つが原因として考えられます。
・筋・筋膜性
・椎間板性
・仙腸関節性
さらに絞っていくために屈曲で痛みが出現したあとはそれぞれ検査を進めていきます。
まずは筋・筋膜性を疑い、圧痛所見を評価する
筋筋膜性腰痛の場合は筋肉への負担増により筋スパズム状態にあることが多いです。筋スパズムの評価については下記記事をご参照ください。
治療的検証として、筋スパズムの改善を図り、先ほど痛みが出現した運動で再検査を行い、腰痛の変化をみます。
もし、特定の筋のスパズム改善により症状が消失したのであれば、その筋による痛みであった可能性が高くなります。
そこで、なぜ、その筋がスパズム状態にあったのかを考えるために、姿勢や職業、生活背景などを聴取・評価し、根本原因の解決を目指します。
以下の記事では、根本原因を考えるといった基本的な思考についてまとめています。
次に骨盤固定位での体幹屈曲で鑑別する
体幹屈曲時に骨盤を固定することで、骨盤より上の組織の可動性が増加し、骨盤以下の組織の可動性は低下します。
骨盤固定で痛みが軽減・消失するようであれば、骨盤以下の組織である可能性が高く、仙腸関節が疑われます。
そこで、さらに仙腸関節の冠名テスト(Newton-t,Gaenslen-tなど)や屈曲時のPSIS(上後腸骨棘)の触診・観察を行い、特定しましょう。
(仙腸関節障害の場合、屈曲時の仙腸関節の可動性が低下側のPSISが高位化します。)
骨盤固定で痛みが変わらないor増悪するようであれば、骨盤より上の組織である可能性が高く、椎間板性の腰痛が疑われます。
その場合は立位と座位での屈曲で痛みに差があるかを確認しましょう。
椎間板性の腰痛では座位でより痛みが増強する特徴があるからです。
体幹伸展で誘発される場合
体幹伸展で誘発される場合、次の3つの可能性があります。
・椎間関節性
・椎間板性
・仙腸関節性
原因を絞るためには、次のように進めます。
骨盤後傾位での体幹伸展で痛みの変化をみる
骨盤後傾位からの体幹伸展では、解剖学的特性から椎間関節へのストレスが減少し、椎間関節性の痛みであれば軽減することが多いです。
そのため骨盤後傾位からの体幹伸展で痛みが軽減したら、椎間関節性の可能性が高いです。
椎間関節性腰痛では背臥位で椎間関節を腹側へ圧迫することで圧痛がみられます。
単純に椎間関節を圧迫する以外にも、棘突起を介して圧迫し症状を誘発・緩和する検査法もあります。
そのほか除外検査
上部ヘルニアとの鑑別検査として大腿神経伸張検査(FNS-t)を行う。
上部ヘルニアであれば、FNS-tが陽性となるが、椎間関節性なら陰性となる。
脊柱管狭窄症との鑑別検査としてKemp-tを行う。
脊柱管狭窄症であれば、Kemp-tが陽性、椎間関節性なら陰性となる。
*Kempテスト:体幹の後側屈により神経絞扼を誘発する検査手技。側屈側の神経が絞扼される。

仙腸関節性と椎間板性を鑑別
骨盤後傾位での伸展で痛みが緩和しなかった場合は椎間板性の可能性は低くなり、仙腸関節性や椎間板性の可能性が浮上します。
これらの頻度はそれほど多くはありませんが、仙腸関節冠名テストや腹臥位での体幹伸展などを行い、原因を特定しましょう。
腹臥位での体幹伸展では腰背部筋の筋力要求増大から収縮力が増加し、椎間板を圧迫する力が大きくなります。
立位座位の体幹伸展よりも腹臥位での体幹伸展でより痛みが増強するのが椎間板性の特徴です。
参考:鈴木信治:伸展運動を中心とする腰椎椎間板障害の治療,日本腰痛会誌3(1),65-78,1997 https://www.jstage.jst.go.jp/article/yotsu1995/3/1/3_1_65/_pdfまとめ
いかがでしたか?
この記事では、腰痛の分類から、非特異的腰痛の臨床推論のフローチャートなどを紹介しました。
もちろん、この分類やフローチャート が完璧ではありません。
必要に応じて各種検査を選択し、様々な検討を行ってください。